ADSRの話 おまけ③(終)『ノットADSR』
第3回でエンベロープの種類について、以下のように書きました。
設定項目は4つ!
シンセによって数は違うけど、ここ40年くらいのスタンダードは、4つ。
このくらいが「複雑すぎず、それなりにいろんな形が作れる」ってことみたい。
もちろん「もっと少ない方が直感的に使えるぜ」という考えで2,3つなシンセや、
「もっと緻密にサウンドデザインしたい」から10を超えるものもある。
ということで、有名な鍵盤シンセを中心に、ADSRじゃないエンベロープのものをチラチラ見ていきましょう。
Minimoog (Moog, 1970)
アナログモノシンセの王様。
ノブは3つ。Attack Time / Decay Time / Sustain Levelで、Rがない。
鍵盤の脇にDecayスイッチというのがあり、これがオフの時はつねにR = 0。
オンの時は、R = Dになる。
今見れば突飛な設定はできないが、この機種の魅力は音の良さなので、不満はとくになし。
http://www.korg-kid.com/moog/product-details/minimoog-model-d/
DX7 (Yamaha, 1983)
80sを支配した(?)定番FMシンセ。
FMシンセというのはすこし特殊で、オペレーターという音源が幾つも入っている。
(DX7の場合、サイン波だけを出せるものが6つ。)
オペレーターはふつうに音として聴いてもいいし、または他のオペレーターを加工する道具としても使えて、その組み換えで色々な音を出すのだ。
そして!そのオペレーターが1つずつエンベロープを持っている。
さらに!全体のピッチエンベロープがおまけでもう1つついてくる。
しかも!それぞれのエンベロープが8つの設定を持っている。
この時点で単純計算で56の設定がある……
デジタルシンセの強みをたっぷり盛り込んだ、モンスターシンセだったわけだ。
今までにない音が出せると評判だった一方、自分で音作りするのはメッチャむずかしいと言われ、プリセットまんま使いの曲が多かった。
でもそれがむしろ「DX7の音って言ったらコレ!」とキャラ立ちすることになり、人気をさらに高めていたんだろうな。
https://jp.yamaha.com/products/music_production/synthesizers/dx7/index.html
Odyssey (Arp, 1972)
Minimoogのライバルとも言われた(要出典)アナログシンセ。
オシレーターシンクやリングなど、当時としては突飛な音色を作れる幅広さがあった。
エンベロープはADSRとARが1つずつあり、選べる。
だけでなく、実験的な音作りもできて、
エンベロープが ADSR ADSR ADSR……と勝手にループするモードや、
鍵盤に触らずとも鳴りっぱなしになる設定もある。
https://www.korg.com/jp/products/synthesizers/arpodyssey/
MS-20 (Korg, 1978)
今も再発が買えるアナログモノシンセ。
ケーブルパッチングで色々遊べる右半分がたのしい。
メインのADSRと、ピッチ用のARが一つずつある。
(ケーブルの繋ぎ方次第で、他の用途にも使える。)
しかも、それぞれノブがひとつ多い。
ADSRにはHoldがついている。
鍵盤を弾く長さの最短長を決めてくれるもので、
Holdぶんよりも短く弾いても、Holdぶんの長さで弾いたことにしてくれるのだ。
(現代のシンセでHoldって言ったら、ちょっと違う挙動になるかも。)
ARには追加でDelayがついている。
これはエコーエフェクトみたいなディレイではなく、ただ単にスタートが遅れるというもの。
タイミングをズラすことができる。
https://www.korg.com/jp/products/synthesizers/ms_20mini/
Prophet 5 (Sequential Circuits, 1978)
アナログポリシンセの王様。
ADSRです。でもいちおう触れておきたかった。
以上〜〜
https://www.sequential.com/2018/08/sequential-celebrates-prophet-5-40th-anniversary/
Jupitar 8 (Roland, 1981)
これもポリシンセの名作。
ADSRなんだけど、Key Followというスイッチがあって、
弾く鍵盤に応じてタイム感を伸び縮みさせられる。
低い音ほど遅い動き。高い音ほど速い動き。
高い音ほど余韻が短いっていうのは、物理現象的にも自然。
http://www.roland.co.uk/blog/roland-icon-series-jupiter-8-synthesizer/
JD-Xi (Roland, 2015)
突然あたらしいシンセですが、面白かったので紹介。
ノブ1つでエンベロープを決めることができる。
「短い1shot型 → Gate型 → パッド型」
と、ひとひねりで色んな形にモーフィングしてくれる。
すばやく音作りができるし、できた音色に対してひねっても思わぬ発見があるかも。
もっと厳密な音作りがしたいときは、エディット画面の中で、ふつうのADSRとして使うこともできる。
https://www.roland.com/global/products/jd-xi/
CZ-101 (Casio, 1984)
DX7の対抗馬として、PD音源という独自の音源を搭載したデジタルシンセ。
FM音源と似て、アナログシンセには出せない金属的な音もカバー……
でもおれこれは触ったこと無くて、正直わかってないんですよねえ。
8ステップ方式という異常に作り込めるエンベロープを持っており、ひとつのエンベロープで19の設定を持つ。ひええ……
その気になればジェットコースターばりに上下しまくる動きから、緻密なカーブまで色々できる……らしい。
https://en.wikipedia.org/wiki/Casio_CZ_synthesizers#CZ-101
Xfer Serum
ソフトシンセもひとつは取り上げよう。いまも人気継続中のSerum。
設定は非常に多い! 心ゆくまでサウンドデザインできる。
Massive Xとかもだけど、プラグインならではの「何でもできる」系。
ADSRに加えてHold Timeの設定がある。
これはMS-20のHoldとは違って、Aが終わったあとすぐにDせず、音量マックスで止まってくれる。
A, D, Rについてもカーブの微調整もできるし、それが何個も使える。
視覚的にわかりやすいのもうれしい。
しかも、LFOも沢山ある。
LFOって本来ループするものなんだけど、Serumではループを切ってエンベロープのようにも使える。
その曲線も自分で描き放題なので、どんな動きでも作れちゃうね。
https://xferrecords.com/products/serum
ゲームボーイ (任天堂, 1989)
ゲームのサウンドチップにもほんの少しだけ触、、、
基本的にはゲームのBGMや効果音を出すための機能なので、演奏するための楽器とはまた違った独特な方式を持っている。
Gate型のピコピコ音が出るんだけど、以下の3パラメータのエンベロープも使える。
初期音量を選び→そこから大きくするか/小さくするか選び→変化速度を決める。
これはゲームソフトを作る人が作曲するためのしくみなのだが、
ユーザがゲームボーイを作曲・演奏に使用できるソフトもある。
LSDjやnanoloopが有名で、ゲームボーイでライブをするアーティストも世界中にいる。
おれは実はさわったことないんだけど、また違ったエンベロープ設定ができるっぽい?
こういったPSG音源から、波形メモリ音源、FM音源。
家庭機に、携帯機に、アーケード機。
ゲームの音源はそれぞれ違ったこだわりの仕様になってます。とくに古いものほど。
種類がすごいあると思うんであとは各自調べて!
https://www.nintendo.co.jp/n02/dmg/hardware/gb/
A-140 (Doepfer, 1995)
これも独自の世界観として、モジュラーシンセにも触れておこう。
普通のシンセが「電源とスピーカーを繋げば音が鳴る」ものだとしたら、
モジュラーシンセは、シンセの一部分の機能だけ(モジュール)をばらばらに購入して、自分で好きに組み立てるというものだ。
服のコーディネートのように、別々のメーカーのモジュールを組み合わせてカスタマイズするもよし。
普通のシンセには無い繋ぎ方、無い機能のモジュールで新しい音を作るもよし。
自動演奏も含め、「鍵盤を弾いて音を鳴らす」なんて枠組みをいくらでも超えていけるという面白みがある。
それゆえ、平凡なADSRだとしても、繋ぎ方・組み合わせ方次第で色んな事ができるし、単体でもそもそも平凡じゃないモジュールもある。
モジュラーシンセ自体は60年代のMoog社だって作っているが、今の主流はユーロラックという規格。
この規格を定義したDoepfer社の、いちばん基本セットに入っているふつう〜のADSRがこれ。
http://www.doepfer.de/a140.htm
超今更だけど、たまに見かけるEGというのは「エンベロープ・ジェネレーター」の略。
エンベロープとだけ言うと、時間的な変化そのもののことで、
そういう変化を"生み出す機能"を指す時はEGと言うほうが実は正確。
アレやコレを紹介しねえのかよ、という声がまだまだあるかもしれませんが、もうつかれたのでやめます。
長らくお付き合いいただきありがとうございました。